『星新一』のショートショートの思い出
筆者は小学性時代、勉強はからきしでしたが本を読むのは比較的好きだったので、いろいろな本を親に買ってもらって読んだものです。
特に小学校高学年のときは星新一さんのショートショートにハマり、本屋さんに親と行くたびに新しい本を買ってもらいました。
うちの両親は両方とも出版に関係する仕事をしていたので本の購買にはとても寛容で、活字小説のみならず漫画本も好きなだけ買ってくれましたが、星新一さんのショートショート小説は小学生でも読みやすく、江戸川乱歩のミステリー小説と併せて片っ端から読んでいった記憶があります。
中学生になると星新一さんの小説は読まなくなりましたが、筆者が大学4年生のとき教育実習で中学生になったばかりの子たちのクラスを2週間ほど受け持ったとき、生徒の女の子と雑談していると「先生、星新一さんの本読む?あれ面白いよね」と言われて、約10年ぶりくらいに星新一さんのショートショートのことを思い出しました。
そして「そうかあ、いまでも小学生から中学生にかけては星新一さんのショートショートを読むのね」と感慨深くなったものです。
ある意味星新一さんのショートショートは小学生にとっては一定層の読書好きな子にとっては通過儀礼だったのかもしれません。
星新一さんのショートショートの社会風刺の作品に近い作品でしたらラノベでいうところの『キノの旅』や『魔女の度々』かもしれません。
比較的現代社会や社会的通念を風刺する作品も多い星新一さんのショートショートですが、小学生時分の筆者には理解不能な作品もちらほらありました。
いや、理屈としては理解できるがこれが一体どういう意味があるのか・・というテーマ性への理解ができないといったほうが正しいかも。
たとえば、『エスカレーション』というショートショートではヴァージン検出液という薬品が出てきて、それを女性に振りかけると処女かどうかわかるという。これ騒動になる話なのですが、はっきりいって小学生の筆者には「それがわかったところで一体どうなるの?」と感じたものです。まあ、いまでもそう思いますが、小学生のときは本気で首をかしげながら読んだものです。
一方で星新一さんのショートショートによって社会情勢がわかることもありました。
『求人難』という作品では経営者が人を雇おうにもなかなか人材が見つからず雇えない情景が描かれていますが、この作品が描かれていた当時はバブル経済が最盛期であり本当に求人が難しく、企業は新卒の学生を囲うために内定を出した学生をハワイ旅行に接待するなどした社会のありようが、その作品を読んで伝わってきました。
もっとも筆者が中1の頃にはバブル経済は弾けて日本経済は下り坂に向かい、筆者が大学を卒業するときは「就職氷河期」と呼ばれる非常に苦しい憂き目に会いました。
今考えても吐きそうなくらい苦しい苦戦した就職活動でした(就職浪人しました)。
新卒で就活に苦しんでいるとき「星新一の『求人難』の時代に就活したかったなあ」と考えていたものです。
最後に、最もインパクトがある星新一さんのショートショートですが、『魅惑の城』というショートショートでした。
これは原始密教によりネクロマンサー(死体を操る人)が死んだ人間を使役してゾンビとして風俗業を行わせるというとんでもない話なのですが、小学生当時の筆者には刺激が強すぎました。
ときどきアダルトな要素も出てくるのが星新一さんのショートショートですが、おおむねオブラートに包まれた表現でしたので興奮することはほとんどありませんでした。
しかし、この作品に関しては小学生の頃の筆者にとっては度を越えた内容で、読んでいて胸の鼓動が止まらないくらいの興奮を感じたのを覚えています。
『なりそこないの王子』というショートショート集の文庫の中で読めますので興味がある方はどうぞ。